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クリストファー・ウォード トゥエルブ Xをハンズオンの新作情報です。

この時計は、ブランド創設20周年と自社製ムーブメントのCal.SH21の10周年を祝した印象的なスケルトンモデルだ。

クリストファー・ウォードの“トゥエルブ” Xは、一体型ブレスレットデザインに対するブランドの最新アプローチである。この時計は最近話題になっており、私のInstagramのメッセージにも多くの質問が寄せられている。幸運なことに、私はこの最新作を見て、体験し、そして撮影する機会を得た。新しい“トゥエルブ” Xについて私なりの考えを述べていこう。

パテックフィリップスーパーコピー時計 代引き専門店今回リリースされるのは、クリストファー・ウォードの創業20周年とCOSC認定を取得した自社製自動巻きCal.SH21ムーブメントの10周年を記念した、41mm径、12.3mm厚のチタン製ブレスレットウォッチである。同ムーブメントは現在、機械による仕上げと、スケルトナイズ加工が施され、力強くドラマティックな雰囲気を生んでいる。さらに本モデルのクラスプには、素晴らしいクイック調整機構まで付いている。しかしクリストファー・ウォードはトゥウェルブを2023年4月に最初に発表して以来、いくつかのバリエーションを製作している。これには下の写真にある36mmバージョンと、Ti 40(40mm径のチタンバージョン)も含まれる。では、なぜこれほど時間がかかったのだろうか?

トゥエルブではデザインを新たに考え出すことはない。一体型ブレスレット、角張ったケース、質感のある文字盤を備えたトゥエルブは、アイコニックな時計から(ロイヤルオークやロレアート、オーヴァーシーズが思い浮かぶ)、最近のモダンな一体型ブレスレットデザインまで(ティソ PRXや、さらに顕著なチャペックのアンタークティックなど)、多くの時計を思い起こさせる。これは批判として言っているのではなく、事実として述べている。

私が最初にクリストファー・ウォードについて書いたとき、それは彼らの代表作であるベル カントについてであった。ソヌリ オ パサージュ(正時ごとにチャイムの音で時間を知らせる特殊機構)を手頃な価格で提供するという点で、いまでも尊敬している時計である。しかしそれもまた、MB&Fの時計と驚くほど似ていた。しかしそれでいいのだ。我々は価格帯が大きく異なるものについて話しており、クリストファー・ウォードがMB&Fであると主張しているわけではない。しかしこの種のデザイン要素は、富裕層だけのものである必要はない。クリストファー・ウォードが頻繁にそうしているように、そのコードを簡単に解決することができるのであれば、それに越したことはないのだ。

トゥエルブの最初のモデルを見たとき、私はすぐにそのインスピレーションを再認識した。いま思えば、そのリリースに対するフラテッロのアプローチを高く評価している。彼らは興味深い類似点を強調したが、私が下で共有するチタン 40を使ってみたあとに持つ同じ意見に至った。そう、私にとってこの時計の外観と感触は、396万円(税込)するチャペック アンタークティックと明らかに類似している(ダイヤルのテクスチャー、日付窓の配置、インデックスの形状を見てほしい)。しかし、それがトゥウェルブが悪い時計であるか、または模倣であるという意味ではない。はっきりさせておきたいのは、この時計は楽しくてつけ心地がよく、しっかりとした仕上げとCOSC認定のクロノメータームーブメントを搭載しながら、1895ドル(日本円で約29万7000円)という驚くほど手頃な価格で提供されているということだ。新モデルのトゥエルブ Xはそれ以上のものを備えている。

トゥエルブ Xは、オリジナルのチタンモデルをベースに、新たなレベルへと進化している。明らかにスケルトン化以上の変化があるのだ。ブレスレット一体型の時計は、適切なサイズであれば、快適に着用できることが重要であり、このリリースはその要件を望んでいたとおりに合わせて満たしている。自社製SH21ムーブメントを収めるためにケースを直径1mm、厚さ3.35mm拡大。手首につけたとき、特に厚みの違いは明らかだが、丸みを帯びたケースと、ケースからブレスレットまでシームレスに統合されているおかげで、わずかに厚みが緩和されている。

ベゼルとケースバックはグレード5チタン製で、それ以外はややソフトなグレード2だ。ロイヤル オークのようにハイポリッシュされた表面では、一般的にベゼルの凹みが最も目立つところだが、これはあまり目立たないので、少し不思議に思う。しかしケースとブレスレットの側面の面取りは、注意しないと簡単に傷が付きそうで、その非常にきれいに仕上げられたラインを損なうのは確かに残念である。とはいえグレード5へのアップグレードが役に立つかどうかは分からない。

一方、ほかの部分でグレード2のチタニウムを使用することは、ポリッシュされたエッジとそのあいだのサテン加工された表面の仕上げに役立っている可能性が高い。これはトゥエルブの最大の強みのひとつである。チタンは素材の控えめなビジュアル言語を強調するように扱われることが多いが、適切なレベルの仕上げを施すことで、反射するコントラストや深いグレーの深みの繊細さを引き出すことができるため、より多くのブランドがこの素材を取り入れている。

トゥウェルブ Xのスケルトナイズは、おそらくその最大のセールスポイントのひとつとなるだろうし、それには十分な理由がある。オーデマ ピゲのムーブメントのスケルトンムーブメントが最高峰を極めているのは、多くの点でそれを念頭に置いて一から設計されているからだ。これはロイヤル オーク・ダブルバランスホイール・オープンワークではないが、スイス製のクリストファー・ウォードは4335ドル(日本円で約68万円)でその感覚を少し味わわせてくれる。

つまり、COSC認定の自動巻きクロノメーターで、精度が高く、5日間(計算したくない人のために言うと約120時間)のパワーリザーブがある時計について話している。これは、非常に明確に、素晴らしいことだ。ロングパワーリザーブを実現するためのツインバレルを含めると、明らかにオープンワークのデザイン性が損なわれるが、パワーリザーブが増えるメリットを考えれば小さな代償だ。この時計は、スケルトナイズされた時計と同じように多少読みにくいが、文字盤の端には時・分が発光材料で明確に示されており、それが助けになっている。

ムーブメントは、価格を考えれば当然だが機械仕上げである。ブリッジと形状をできるだけ単純化し、ブリッジやほかの部品に対照的な色を使用して見た目にインパクトを持たせている。仕上げには“オーダーメイドダイヤモンドカッター”と呼ばれる“最高品質のCNCマシン”を使用しており、その仕上げの際に起こる振動が、表面にシワや波を残す。ただこのような技術は、引き続きこの価格帯に適用されるものであり、このようにうまく実行された場合には素晴らしい価値となる。

トゥエルブ Xのもうひとつの素晴らしい変更点は、バタフライクラスプである。ブレスレットのクラスプの両端にはマイクロアジャスト用のクラスプが付いているため、湿度の変化、体重の増加、あるいはリンクをひとつ取り除いた際に時計がぴったり合わない場合の修正のために、3mmのスペースを調整することができる。ブランドによると、これは“最近まで一体型ブレスレットでは知られていなかった”ことであり、事実ではないという。ヴァシュロンは10年近くものあいだ、オーヴァーシーズコレクションでマイクロアジャスト機能を採用している。しかしいまでは、その価格の何分の1かの時計に搭載されている。このデザインがトゥエルブのほかのバージョンにも採用されるのかどうか、興味深く見守りたい。このレビューを書いているあいだにも、その低価格と大胆な文字盤カラーにますます魅力を感じている。

クリストファー・ウォードが持つ精神の大部分は、私が最も高く評価しているものである。時計は、製造コストの3倍以上で販売されるべきではないというブランドの強い信念である。これはブランドの消費者直販モデルでしかできないことなので、トゥエルブ Xを探している人はブランドのウェブサイトに行くべきだ。4335ドル(日本円で約68万円)という価格は、非常にお買い得である。クリストファー・ウォードが一体型ブレスレットウォッチを提供するブランドの仲間入りを果たしてから1年が経過したいま、トゥエルブがほかのブランドのデザインのいいところ取りというだけでなく、彼ら自身の明確な特徴として知られるようになるのは時間の問題だろう。

3つの時計ブランドによって、近代的なダイバーズ・ウォッチが初めて発表された。

1953年、現代的なダイバーズウォッチが3つの時計ブランドによって初めて発表された。この功績で非常によく知られているふたつのブランドがある。ひとつはブランパンのフィフティ ファゾムズ、もうひとつはロレックスのサブマリーナーである。しかし、現代的なダイバーズウォッチと認識されるものをデビューさせた3番目のブランドがある。それがゾディアックだ。

ほかのブランドと同じ年にシーウルフを発売した。ロレックススーパーコピー激安代引きオリジナルのシーウルフは、優れた視認性や回転式のタイミングベゼルなど、本格的なダイバー用計器としてのすべての特徴を備えていた。ロレックスのような巨大企業ではなかったものの、数十年にわたり、この会社は常に競争相手でありながら、耐久性があり比較的手頃な価格の時計を製造し続け、その製品は軍人を含む多くの人々に熱心に採用されていた。そのなかにはネイビーシールズチームも含まれており、実際ゾディアックはその事実を広告で積極的にアピールしていたのだった。

しかし、ジェイソン・ヒートンが以前にスーパーシーウルフ 53の記事で指摘していたように、歴史は勝者によって書かれるものであり、ダイバーズウォッチ時代の幕開けにデビューしたシーウルフは、多くの企業と同様に、クォーツ時計技術の導入後の生き残りを模索するなかでほとんど忘れ去られてしまったのである。2001年にフォッシルに買収されたあと、徐々に1950年代と60年代のダイバーズウォッチのデザインを復活させ始めている。特に今日の“古きよきものが新しく見える”ような時計の世界では、シーウルフは以前よりもさらにクールな姿を見せている。

シーウルフシリーズは、2015年にゾディアック社によって正式に再スタートし、200m防水のスリムなモデルから1000m防水のスーパーシーウルフ 68までラインナップされている。

ゾディアックの全盛期には、シーウルフウォッチは幅広いスタイルと深度基準で提供されていた。それには、比較的スリムで防水性がそこそこのものから、アグレッシブな形状のソートゥース(ノコギリの刃のような)ベゼルを備えた巨大な海中計器ウォッチまであり、防水性は最大3000フィート(約900m)に達していた。2015年、ゾディアックによってシーウルフコレクションは正式に再発売され、水深200mまで耐えられるスリムなモデルと、水深1000mの防水性能を誇る新しいスーパーシーウルフ 68が含まれている。そして、その見た目はそれ相応の迫力があるのだ。

スーパーシーウルフ 68は、特別なパッケージが付いた82個限定のエディションで、ラバーストラップとメッシュブレスレットの両方が付属している。クッション型のケースは50mm×44mmで、非常に頑丈なステンレススティールの大きな塊だ。これは、分厚いガラスの窓を貫通してもその軌道がmm単位で変わらないと想像できるようながっしりとした時計のひとつだ。その巨大さは、戦車の予備のキャタピラとしても使えそうな感じのリンクブレスレットによってさらに強調されている(例えば、もしタンクを持っていて予備が必要だと感じたなら)。この時計を手に取るか腕につけると、何か問題が起こったときにも信頼できるものを持っているということに何の疑いもない。それが、ダイビング中であろうと地上であろうとだ。

スーパーシーウルフ 68の文字盤は、それに影響を与えたヴィンテージモデルからほとんど変わっていない。実際、オリジナルへの忠実さはほぼ完全である。唯一の顕著な違いはスーパーシーウルフという言葉が新モデルの6時の位置から12時の位置に移動したことであり、それは“Automatic Chronometer”という言葉を収めるためである(ここに写真で示された限定版はCOSC認定されている)。ベゼルは鋭く、カチカチと回転し、ガタつくような遊びはなく、設定後はしっかりとその位置に固定される(解除するには押し下げる必要がある)。分針はもちろん、ダイバーにとって最も重要であり、オレンジ色で際立って輪郭が引かれている。ダイヤルマーカーも同様である。

前述のブレスレットは、この時計で最も素晴らしいもののひとつだ。重いが、しなやかでつけ心地がよく、その重さと大きさにもかかわらず、時計をかなり身につけやすいものにしている。また、クラスプにはウェットスーツ用のエクステンションシステムが装備されている。

内部には自動巻きムーブメントSTP-11が搭載されているが、これには興味深い余談がある。STP-11は、スイス・テクノロジー・プロダクション社(Swiss Technology Production)という会社によって製造されており、この会社はゾディアックの親会社であるフォッシルグループが所有するムーブメントメーカーである。STPは2006年に設立され、セリタなどの企業とともに、ETAのような広く使われている自動巻きキャリバーに対する数少ない選択肢のひとつを表している。ここで興味深いのは、スイス製の時計でありながら、スイスのムーブメントメーカーからのムーブメントを使用しているが、実際にはアメリカの企業(フォッシルグループはテキサス州リチャードソンに本社を置いている)が所有しているという状況だ。STPは2015年、最大25万個のムーブメントを生産する予定であり、STP-11の非COSCバージョンは、フォッシルのスイス製とされるオートマチックウォッチのラインでも使用されている。

先代モデルと同様、スーパーシーウルフ 68は素晴らしい価値を備えている。COSC認定クロノメーターでありながら、申し分のない品質と素晴らしいスタイリングを備えている。COSC認定を受けていない限定ではないスーパーシーウルフは、ラバーストラップ付きで1395ドル(当時のレートで約16万8865円)、メッシュストラップ付きで1595ドル(約19万3075円)である。 これをバーゲンと表現するのは、まるでお買い得であるという事実がこの時計の最も興味深い点であるかのように思わせてしまうため、いささか恥ずべきことのように思えるが、それは決して損にはならない。

ゾディアック スーパーシーウルフ 68 リミテッドエディション、写真のモデルは1995ドル(当時のレートで約24万1495)。ステンレススティール製クッションケース、50mm×44mm、100気圧/1000m防水。ステンレススティール製メッシュブレスレットまたは(付属)ストラップ。ブラックサンレイダイヤル、逆回転防止60分計ベゼル。COSC認定クロノメーター。

パイロットウォッチを形成し、発展させてきた4つのモデルについて。

時計はツールである以上、目的に沿った機能や仕様を備える。ドライビングにおけるクロノグラフ、水圧に耐えるダイバーズウォッチもそう。翻ってパイロットウォッチを見れば、本来の機能の恩恵に浴する持ち主はけっして多くはないだろう。だがそれでも人気は尽きない。別々の時代に異なる人々に愛され必要とされてきたパイロットウォッチ。このジャンルを形成し、発展させてきた4つのモデルを取り上げる。

カルティエ サントス
パイロットウォッチであるとともに、世界初の紳士用高級腕時計とされるカルティエ サントスを語るには、まず誕生の背景となった大きな時代の転換期について認識しておくべきだろう。

19世紀末から20世紀初頭、オメガスーパーコピー激安代引き産業革命に端を発する技術革新は実用域に達し、さまざまな機械化や情報化を促し、生活、文化、価値観などあまねくものを変えていった。それは大衆の時代の到来でもあり、旧特権階級に代わるネオブルジョアジーが台頭。彼らは旧態然とした社会慣習に飽き足らず、よりアクティブに活動し、時代をリードした。ファッションにしてもトップハットやステッキといったフォーマルな伝統様式を脱ぎ捨て、自分たちの新たなジェントルマンスタイルを作り上げた。それを補完し、より個性を演出する道具となったのがライター、シガレットケース、万年筆といったアクセサリーだ。そして腕につけられるようになった時計もそのひとつだったのである。

そんな時代を駆け抜けた男がアルベルト・サントス=デュモン。ブラジルのコーヒー王の息子として生まれ、自身は飛行家だった。パリのシンボル、エッフェル塔で飛行船での周回記録を打ち立て、時代の寵児となり、やがて飛行機へと情熱を傾けた。それは自動車のエンジンを利用し、自ら航空機を設計するほどで、興味は空を飛ぶことに関わるすべてに注がれたに違いない。

 ある日サントスは、友人のルイ・カルティエに相談をもちかけた。それは飛行用の腕時計についてだった。当時も腕時計は存在していたが貴婦人用の装身具が主であり精度は求められていなかった。大空への挑戦においては、正確な時間計測は不可欠。それには操縦桿から手を離すことなく時間が読み取れ、片手で操作できなくてはいけない。しかも懐中時計とは異なり、つねに外部にさらされ、衝撃に耐え、精度や信頼性も必要だ。この相談を受け、1904年にルイがデザインした時計がサントスなのである。以降、それはサントスのシンボルになるばかりか、空の冒険を支える大切な相棒になったのだ。


カルティエ サントス デュモン エクストラフラット(左、コレクター私物)。カルティエ サントス デュモン ウォッチ、63万2500円(右)

 サントスを羨望したのは飛行家だけではなかった。つねにスーツ姿にタイドアップし、マウンテンハットを被ったサントス=デュモンはファッションリーダーであり、華やかな社交界のセレブでもあった。その腕に収まったサントスはまさに新たな時代を象徴し、最新鋭のハイテクツールのように多くの男たちを魅了した。そして当初のワンオフから1911年には一般にも販売されたのである。

 いま見ればオリジナルのスタイルは、パイロットウォッチというよりもドレスウォッチというべきだろう。ラグを一体化したケースは、強度を重んじて設計されたかは不明だが、滑らかな曲線を描き、エレガンスと先進性を漂わせる。スクエアの文字盤にしても機能性というよりも、ラウンドの懐中時計へのカウンターカルチャーだったのかもしれない。その進取の精神と気骨ある意思は現行モデルにも受け継がれている。

 懐中時計のように正確な時間を刻む実用性とドレスウォッチのような装身具としての役割を兼ねそなえ、初めて世に生まれた男のための腕時計、サントス。それが脈々と続くパイロットウォッチの興りであったというのも、なんともロマンをかき立てる。

ロンジン ウィームス&アワーアングルウォッチ

ロンジン アワーアングルウォッチ(左)。ロンジン ウィームス(右)

 大空を自在に飛翔するには、大いなる情熱と勇気ばかりでなく、透徹した論理と高度な航法知識がなくてはならない。1920年代、航空時代の黎明期にアメリカ海軍士官学校の指導官フィリップ・ヴァン・ホーン・ウィームス大佐は、六分儀や星の位置から現在地を判断する天測航法を研究し、改良を続けた。研究者であり、指導者であると同時に、彼は発明家でもあった。1927年には長距離航法をサポートする独自のセコンドセッティングを考案したのだ。

 時速数百キロで移動する航空機では、わずか数秒でも距離と位置には大きな差が生じてしまう。そこでウィームスが考え出したのは「秒針で調整するのではなく、秒目盛り自体を動かす」という画期的な機構だった。60秒スケールを刻んだ回転式インナーディスクを設け、時分針の動きを止めることなく、秒単位で正確に時刻を同期させた。この革新的な機構を備えたパイロットウォッチの製造を担ったのが、ロンジンだ。1919年から国際航空連盟(FAI)の公式サプライヤーを務め、ロンジンはウィームスと共同で1927年にセコンドセッティングウォッチを開発し、空のパイオニアを支えた。


リンドバーグが描いた図案からアワーアングルウォッチは誕生した。Courtesy Longines


ロンジン リンドバーグアワーアングルウォッチ、83万500円。

 航空機や航法技術の発達とともに、より完成度を増したパイロットウォッチが大空への門戸をさらに開いたことは言うまでもない。チャールズ・リンドバーグもその発展に貢献したひとりだ。1927年リンドバーグは、33時間30分におよぶノンストップの大西洋横断単独飛行という偉業を成し遂げ、航空の歴史に新たな1ページを加えた。それは、飛行時間と地形で位置を確認する推測航法による快挙だったが、多くの課題も残した。そこでリンドバーグはウィームスに師事し、翼下で航空ナビゲーションについて学んだ。セコンドセッティングの改良に加わり、そのシステムに自らの飛行体験を加え、推測に頼らず、より正解に位置を測定できる新たな時計を発案。ロンジンに依頼し、1931年に誕生したのがアワーアングルウォッチだ。太陽の時角(アワーアングル)を測定する回転ベゼルに加え、秒針ではなく回転するセンターダイヤルで秒を合わせることで、現在地を測定する。この本格ナビゲーションウォッチは以降、多くの名飛行士に愛用され、数々の冒険飛行の偉業を支えた。

 航空時代の幕開けをリードしたロンジンのパイロットウォッチは、いまもカタログにラインナップされている。けっしてノスタルジーだけでなく、ブランドのアイコンとしてあり続けるのだ。セコンドセッティングウォッチの幅広いフラットベゼルはヴィンテージ感を醸し出し、60秒スケールからはかつて空の冒険を支えた機能美が伝わる。アワーアングルウォッチがローマ数字のインデックスを採用しているのも興味深い。ほかのアラビア数字と明確に分け、誤読を防ぐためだろう。それにも増してクラシカルなエレガンスに、飛行士の腕を飾ったロマンチシズムが漂う。

 2本を並べて見れば、互いに切磋琢磨し、大空に情熱を傾けたウィームスとリンドバーグの思いが伝わってくるようだ。それは人類の英知の軌跡であり、時空を超越し、まさに“翼のある砂時計”をロゴにするブランドにふさわしい。

IWC マークシリーズ
 空路の開拓が進む一方、空の時代をさらに進めたのが軍事利用だ。戦争という不幸な歴史が導いたものではあっても、航空機や計器などの機能は研ぎ澄まされ、普遍的なスタイルは時代を超えて魅了する。第2次大戦においてイギリス国防省(MoD)が12社の時計メーカーに製作依頼したミリタリーウォッチもそのひとつ。“ダーティダース”と呼ばれ、製造を担った1社がIWCだ。これにさかのぼること、1936年にはすでに英国軍にブランド初のパイロットウォッチを納入していた。ブラックダイヤルにハイコントラストの時分針を備え、さらに矢印のマーカーのついた回転式ベゼルを分針に合わせることで経過時間を計測する。この時計はマークIXと名付けられ、IWCの輝かしいパイロット・ウォッチの歴史はここから始まることとなった。1940年には、オリジナルのポケットウォッチムーブメントを搭載し、視認性に優れた大きなセンターセコンドを設けたビッグ・パイロット・ウォッチが登場。そしてマークⅩを経て、いよいよ歴代パイロット・ウォッチでも最も名高いマークXIが登場する。エポックメイキングとなったのが耐磁性という新たな性能だった。


イギリス国防省が定めたマークXIの仕様書


12時のバーインデックス左右にドットをつけたホワイト12。のちの三角マーカーでもこの意匠は確認できる。

 当時、機内にもレーダー機器が装備されるようになったが、そこから発する高磁気は時計の精度に大きな影響を与えた。この対策として考案されたのが軟鉄製のインナーケースであり、ムーブメントを覆うことで磁気から保護したのである。この世界初の耐磁性を備えたパイロット・ウォッチは、誕生した1948年から改良を重ね、1984年まで40年近く生産が続けられたのである。マークXIの名声を高めたもうひとつの技術がCal.89だ。毎時1万8000振動にレバー脱進機を備え、両側を固定した香箱、センター秒針を動かす特許の駆動機構、チラネジ付きベリリウム合金製テンプ、ブレゲヒゲゼンマイを採用し、しかもハック機能を備えていることも見逃せない。手巻き式の傑作であるばかりか、設計したアルバート・ペラトンがこれをベースムーブメントにペラトン自動巻きを発明したことでも知られる。こうしたパイロットウォッチから生まれた技術がIWCの礎になっているのだ。


IWC マーク XI(左)。IWC パイロット・ウォッチ・マーク XVIII、56万1000円(右、2022年時の価格)

 現役を引退したマークXIの意思を継ぎ、1993年に民生用として登場したのがマークXIIである。きっかけは創業125周年を記念して。それだけブランドにとって重要なシリーズに位置づけられたのだろう。以降XⅤ、XVⅠ、XVIIと熟成進化を重ね、現在マークXVIIIに至る。特徴は、前身の41mm径から40mmにダウンサイジングし、デイト表示も3日分から1日に変更。マークXV以来になる6と9の数字インデックスが復活し、時計の上下を明示する12時位置の三角マーカーもインデックスの内側に移し、オリジナルへの原点回帰を思わせる。

 精度や堅牢性、視認性や操作性を併せ持つパイロット・ウォッチは、時計に求められる基本要件を高次元で満たす。だがそれも技術革新や時代の要請によって進歩してこそ完成度を高める。マークシリーズにしても変遷は多彩で、なかには12時のバーインデックスの左右にドットをつけたホワイト12と呼ばれるような仕様も存在する。そうして生み出された機能美は普遍的であり、時代を超越するのである。

ブライトリング ナビタイマー
 第2次世界大戦が終了し、世界は復興に向けて再び動き出した。1950年代になると、さまざまな分野における技術革新が人々の興味や好奇心をこれまで以上にかき立てた。空の世界も例外ではない。パイロットウォッチも大きく発展し、これを導いたのがクロノグラフだ。そのリーディングブランドであり、航空界の進歩とともに歩んできたブライトリングにとっても大きなステップアップの時期だった。1915年に独立したプッシュボタンを備えた世界初の腕時計型クロノグラフを発表し、航空用クロノグラフの先駆けとなったブライトリングは、1936年にイギリス空軍の公式サプライヤーになるなど空との絆を深めていた。そして1941年に世界初の回転計算尺を組み込んだクロノマットを発表。ナビタイマー誕生のカウントダウンはこのとき始まった。


ブライトリング ナビタイマー B01 クロノグラフ 43、124万3000円(左)、ブライトリング ナビタイマー Ref.806(右)

 クロノマットの名は“数学者用クロノグラフ”の造語であり、時速や平均速度、単位の変換などあらゆる数学的計算を可能にした。これにインスピレーションを得て1952年に開発がスタートしたのが、近代パイロットウォッチの金字塔とたたえられるナビタイマーである。回転計算尺をさらにパイロット用に進化させるため、航空用計算尺E6Bを搭載。ちなみにこの理論を考案したのは、アメリカ海軍のウィームス大佐であり、当時の航空界をリードした知見がそこに注がれたことがわかる。かくしてナビタイマーは、パイロットがフライトプランを立てる際に必要なあらゆる航空計算を可能にし、まさにナビゲーションとタイマーに由来する名にふさわしかったのだ。

 ナビタイマーの誕生と普及を促した、もうひとつの大きな存在がAOPA(国際オーナーパイロット協会)だ。1939年に設立された世界最大のパイロットクラブで、このAOPAに公式タイムピースとして採用され、ナビタイマーという名も1954年にAOPAによってアメリカで登録されたのである。そのため製造初期ロットにはAOPAロゴが冠され、翌1955年から一般向けとして初めてブライトリングの名が掲げられた。こんなエピソードも発展する航空界との強い結びつきを物語る。


50年代の広告では、航行計器と共通する機能と世界観を強く訴求した。Courtesy Breitling

 今年開発から70周年を迎え、ナビタイマーは新たな一歩を踏みだした。回転計算尺や3カウンターの個性はそのままに、従来のタキメータースケールを省き、フェイスはよりすっきりとした。そして初代AOPAの翼ロゴ復活も愛好家にとってはうれしいところ。それは、パイロットウォッチという域を超え、人生という旅を計画し、針路を定めるシンボルになったのである。モダンに進化を遂げた新生ナビタイマーについて、ブライトリングのジョージ・カーンCEOはこう語る。「機能性や基本デザインを崩さず、スポーツシックなテイストでモダンな雰囲気を持たせました。現代のダイバーズウォッチやSUVがそうであるように、日常生活ではその機能は必要なかったとしてもこうした力強いイメージは誰もが欲するものですから」

 今後のパイロットウォッチについて、航空機はそれ自体が感情を呼び覚ますストーリーを持ち、それを時計に投映していきたいと語る。「ただ私たちはけっしてヴィンテージブランドではなく、豊かな歴史を背景としたモダンレトロなブランドでありたいのです」。込められた思いは新旧ナビタイマーから真摯に伝わってくる。