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パイロットウォッチを形成し、発展させてきた4つのモデルについて。

時計はツールである以上、目的に沿った機能や仕様を備える。ドライビングにおけるクロノグラフ、水圧に耐えるダイバーズウォッチもそう。翻ってパイロットウォッチを見れば、本来の機能の恩恵に浴する持ち主はけっして多くはないだろう。だがそれでも人気は尽きない。別々の時代に異なる人々に愛され必要とされてきたパイロットウォッチ。このジャンルを形成し、発展させてきた4つのモデルを取り上げる。

カルティエ サントス
パイロットウォッチであるとともに、世界初の紳士用高級腕時計とされるカルティエ サントスを語るには、まず誕生の背景となった大きな時代の転換期について認識しておくべきだろう。

19世紀末から20世紀初頭、オメガスーパーコピー激安代引き産業革命に端を発する技術革新は実用域に達し、さまざまな機械化や情報化を促し、生活、文化、価値観などあまねくものを変えていった。それは大衆の時代の到来でもあり、旧特権階級に代わるネオブルジョアジーが台頭。彼らは旧態然とした社会慣習に飽き足らず、よりアクティブに活動し、時代をリードした。ファッションにしてもトップハットやステッキといったフォーマルな伝統様式を脱ぎ捨て、自分たちの新たなジェントルマンスタイルを作り上げた。それを補完し、より個性を演出する道具となったのがライター、シガレットケース、万年筆といったアクセサリーだ。そして腕につけられるようになった時計もそのひとつだったのである。

そんな時代を駆け抜けた男がアルベルト・サントス=デュモン。ブラジルのコーヒー王の息子として生まれ、自身は飛行家だった。パリのシンボル、エッフェル塔で飛行船での周回記録を打ち立て、時代の寵児となり、やがて飛行機へと情熱を傾けた。それは自動車のエンジンを利用し、自ら航空機を設計するほどで、興味は空を飛ぶことに関わるすべてに注がれたに違いない。

 ある日サントスは、友人のルイ・カルティエに相談をもちかけた。それは飛行用の腕時計についてだった。当時も腕時計は存在していたが貴婦人用の装身具が主であり精度は求められていなかった。大空への挑戦においては、正確な時間計測は不可欠。それには操縦桿から手を離すことなく時間が読み取れ、片手で操作できなくてはいけない。しかも懐中時計とは異なり、つねに外部にさらされ、衝撃に耐え、精度や信頼性も必要だ。この相談を受け、1904年にルイがデザインした時計がサントスなのである。以降、それはサントスのシンボルになるばかりか、空の冒険を支える大切な相棒になったのだ。


カルティエ サントス デュモン エクストラフラット(左、コレクター私物)。カルティエ サントス デュモン ウォッチ、63万2500円(右)

 サントスを羨望したのは飛行家だけではなかった。つねにスーツ姿にタイドアップし、マウンテンハットを被ったサントス=デュモンはファッションリーダーであり、華やかな社交界のセレブでもあった。その腕に収まったサントスはまさに新たな時代を象徴し、最新鋭のハイテクツールのように多くの男たちを魅了した。そして当初のワンオフから1911年には一般にも販売されたのである。

 いま見ればオリジナルのスタイルは、パイロットウォッチというよりもドレスウォッチというべきだろう。ラグを一体化したケースは、強度を重んじて設計されたかは不明だが、滑らかな曲線を描き、エレガンスと先進性を漂わせる。スクエアの文字盤にしても機能性というよりも、ラウンドの懐中時計へのカウンターカルチャーだったのかもしれない。その進取の精神と気骨ある意思は現行モデルにも受け継がれている。

 懐中時計のように正確な時間を刻む実用性とドレスウォッチのような装身具としての役割を兼ねそなえ、初めて世に生まれた男のための腕時計、サントス。それが脈々と続くパイロットウォッチの興りであったというのも、なんともロマンをかき立てる。

ロンジン ウィームス&アワーアングルウォッチ

ロンジン アワーアングルウォッチ(左)。ロンジン ウィームス(右)

 大空を自在に飛翔するには、大いなる情熱と勇気ばかりでなく、透徹した論理と高度な航法知識がなくてはならない。1920年代、航空時代の黎明期にアメリカ海軍士官学校の指導官フィリップ・ヴァン・ホーン・ウィームス大佐は、六分儀や星の位置から現在地を判断する天測航法を研究し、改良を続けた。研究者であり、指導者であると同時に、彼は発明家でもあった。1927年には長距離航法をサポートする独自のセコンドセッティングを考案したのだ。

 時速数百キロで移動する航空機では、わずか数秒でも距離と位置には大きな差が生じてしまう。そこでウィームスが考え出したのは「秒針で調整するのではなく、秒目盛り自体を動かす」という画期的な機構だった。60秒スケールを刻んだ回転式インナーディスクを設け、時分針の動きを止めることなく、秒単位で正確に時刻を同期させた。この革新的な機構を備えたパイロットウォッチの製造を担ったのが、ロンジンだ。1919年から国際航空連盟(FAI)の公式サプライヤーを務め、ロンジンはウィームスと共同で1927年にセコンドセッティングウォッチを開発し、空のパイオニアを支えた。


リンドバーグが描いた図案からアワーアングルウォッチは誕生した。Courtesy Longines


ロンジン リンドバーグアワーアングルウォッチ、83万500円。

 航空機や航法技術の発達とともに、より完成度を増したパイロットウォッチが大空への門戸をさらに開いたことは言うまでもない。チャールズ・リンドバーグもその発展に貢献したひとりだ。1927年リンドバーグは、33時間30分におよぶノンストップの大西洋横断単独飛行という偉業を成し遂げ、航空の歴史に新たな1ページを加えた。それは、飛行時間と地形で位置を確認する推測航法による快挙だったが、多くの課題も残した。そこでリンドバーグはウィームスに師事し、翼下で航空ナビゲーションについて学んだ。セコンドセッティングの改良に加わり、そのシステムに自らの飛行体験を加え、推測に頼らず、より正解に位置を測定できる新たな時計を発案。ロンジンに依頼し、1931年に誕生したのがアワーアングルウォッチだ。太陽の時角(アワーアングル)を測定する回転ベゼルに加え、秒針ではなく回転するセンターダイヤルで秒を合わせることで、現在地を測定する。この本格ナビゲーションウォッチは以降、多くの名飛行士に愛用され、数々の冒険飛行の偉業を支えた。

 航空時代の幕開けをリードしたロンジンのパイロットウォッチは、いまもカタログにラインナップされている。けっしてノスタルジーだけでなく、ブランドのアイコンとしてあり続けるのだ。セコンドセッティングウォッチの幅広いフラットベゼルはヴィンテージ感を醸し出し、60秒スケールからはかつて空の冒険を支えた機能美が伝わる。アワーアングルウォッチがローマ数字のインデックスを採用しているのも興味深い。ほかのアラビア数字と明確に分け、誤読を防ぐためだろう。それにも増してクラシカルなエレガンスに、飛行士の腕を飾ったロマンチシズムが漂う。

 2本を並べて見れば、互いに切磋琢磨し、大空に情熱を傾けたウィームスとリンドバーグの思いが伝わってくるようだ。それは人類の英知の軌跡であり、時空を超越し、まさに“翼のある砂時計”をロゴにするブランドにふさわしい。

IWC マークシリーズ
 空路の開拓が進む一方、空の時代をさらに進めたのが軍事利用だ。戦争という不幸な歴史が導いたものではあっても、航空機や計器などの機能は研ぎ澄まされ、普遍的なスタイルは時代を超えて魅了する。第2次大戦においてイギリス国防省(MoD)が12社の時計メーカーに製作依頼したミリタリーウォッチもそのひとつ。“ダーティダース”と呼ばれ、製造を担った1社がIWCだ。これにさかのぼること、1936年にはすでに英国軍にブランド初のパイロットウォッチを納入していた。ブラックダイヤルにハイコントラストの時分針を備え、さらに矢印のマーカーのついた回転式ベゼルを分針に合わせることで経過時間を計測する。この時計はマークIXと名付けられ、IWCの輝かしいパイロット・ウォッチの歴史はここから始まることとなった。1940年には、オリジナルのポケットウォッチムーブメントを搭載し、視認性に優れた大きなセンターセコンドを設けたビッグ・パイロット・ウォッチが登場。そしてマークⅩを経て、いよいよ歴代パイロット・ウォッチでも最も名高いマークXIが登場する。エポックメイキングとなったのが耐磁性という新たな性能だった。


イギリス国防省が定めたマークXIの仕様書


12時のバーインデックス左右にドットをつけたホワイト12。のちの三角マーカーでもこの意匠は確認できる。

 当時、機内にもレーダー機器が装備されるようになったが、そこから発する高磁気は時計の精度に大きな影響を与えた。この対策として考案されたのが軟鉄製のインナーケースであり、ムーブメントを覆うことで磁気から保護したのである。この世界初の耐磁性を備えたパイロット・ウォッチは、誕生した1948年から改良を重ね、1984年まで40年近く生産が続けられたのである。マークXIの名声を高めたもうひとつの技術がCal.89だ。毎時1万8000振動にレバー脱進機を備え、両側を固定した香箱、センター秒針を動かす特許の駆動機構、チラネジ付きベリリウム合金製テンプ、ブレゲヒゲゼンマイを採用し、しかもハック機能を備えていることも見逃せない。手巻き式の傑作であるばかりか、設計したアルバート・ペラトンがこれをベースムーブメントにペラトン自動巻きを発明したことでも知られる。こうしたパイロットウォッチから生まれた技術がIWCの礎になっているのだ。


IWC マーク XI(左)。IWC パイロット・ウォッチ・マーク XVIII、56万1000円(右、2022年時の価格)

 現役を引退したマークXIの意思を継ぎ、1993年に民生用として登場したのがマークXIIである。きっかけは創業125周年を記念して。それだけブランドにとって重要なシリーズに位置づけられたのだろう。以降XⅤ、XVⅠ、XVIIと熟成進化を重ね、現在マークXVIIIに至る。特徴は、前身の41mm径から40mmにダウンサイジングし、デイト表示も3日分から1日に変更。マークXV以来になる6と9の数字インデックスが復活し、時計の上下を明示する12時位置の三角マーカーもインデックスの内側に移し、オリジナルへの原点回帰を思わせる。

 精度や堅牢性、視認性や操作性を併せ持つパイロット・ウォッチは、時計に求められる基本要件を高次元で満たす。だがそれも技術革新や時代の要請によって進歩してこそ完成度を高める。マークシリーズにしても変遷は多彩で、なかには12時のバーインデックスの左右にドットをつけたホワイト12と呼ばれるような仕様も存在する。そうして生み出された機能美は普遍的であり、時代を超越するのである。

ブライトリング ナビタイマー
 第2次世界大戦が終了し、世界は復興に向けて再び動き出した。1950年代になると、さまざまな分野における技術革新が人々の興味や好奇心をこれまで以上にかき立てた。空の世界も例外ではない。パイロットウォッチも大きく発展し、これを導いたのがクロノグラフだ。そのリーディングブランドであり、航空界の進歩とともに歩んできたブライトリングにとっても大きなステップアップの時期だった。1915年に独立したプッシュボタンを備えた世界初の腕時計型クロノグラフを発表し、航空用クロノグラフの先駆けとなったブライトリングは、1936年にイギリス空軍の公式サプライヤーになるなど空との絆を深めていた。そして1941年に世界初の回転計算尺を組み込んだクロノマットを発表。ナビタイマー誕生のカウントダウンはこのとき始まった。


ブライトリング ナビタイマー B01 クロノグラフ 43、124万3000円(左)、ブライトリング ナビタイマー Ref.806(右)

 クロノマットの名は“数学者用クロノグラフ”の造語であり、時速や平均速度、単位の変換などあらゆる数学的計算を可能にした。これにインスピレーションを得て1952年に開発がスタートしたのが、近代パイロットウォッチの金字塔とたたえられるナビタイマーである。回転計算尺をさらにパイロット用に進化させるため、航空用計算尺E6Bを搭載。ちなみにこの理論を考案したのは、アメリカ海軍のウィームス大佐であり、当時の航空界をリードした知見がそこに注がれたことがわかる。かくしてナビタイマーは、パイロットがフライトプランを立てる際に必要なあらゆる航空計算を可能にし、まさにナビゲーションとタイマーに由来する名にふさわしかったのだ。

 ナビタイマーの誕生と普及を促した、もうひとつの大きな存在がAOPA(国際オーナーパイロット協会)だ。1939年に設立された世界最大のパイロットクラブで、このAOPAに公式タイムピースとして採用され、ナビタイマーという名も1954年にAOPAによってアメリカで登録されたのである。そのため製造初期ロットにはAOPAロゴが冠され、翌1955年から一般向けとして初めてブライトリングの名が掲げられた。こんなエピソードも発展する航空界との強い結びつきを物語る。


50年代の広告では、航行計器と共通する機能と世界観を強く訴求した。Courtesy Breitling

 今年開発から70周年を迎え、ナビタイマーは新たな一歩を踏みだした。回転計算尺や3カウンターの個性はそのままに、従来のタキメータースケールを省き、フェイスはよりすっきりとした。そして初代AOPAの翼ロゴ復活も愛好家にとってはうれしいところ。それは、パイロットウォッチという域を超え、人生という旅を計画し、針路を定めるシンボルになったのである。モダンに進化を遂げた新生ナビタイマーについて、ブライトリングのジョージ・カーンCEOはこう語る。「機能性や基本デザインを崩さず、スポーツシックなテイストでモダンな雰囲気を持たせました。現代のダイバーズウォッチやSUVがそうであるように、日常生活ではその機能は必要なかったとしてもこうした力強いイメージは誰もが欲するものですから」

 今後のパイロットウォッチについて、航空機はそれ自体が感情を呼び覚ますストーリーを持ち、それを時計に投映していきたいと語る。「ただ私たちはけっしてヴィンテージブランドではなく、豊かな歴史を背景としたモダンレトロなブランドでありたいのです」。込められた思いは新旧ナビタイマーから真摯に伝わってくる。

ショパール アルパイン イーグルが41 XP TTで再び極薄化を実現。

超薄型でチタン製、かつオープンワークのL.U.Cムーブメントを搭載したこの新作は、ショパールがアルパイン イーグルをウォッチメイキングにおける“上位機種”へと昇華させたことを示すものである。

2019年の誕生以来、アルパイン イーグルは内外ともに幾度となく変化を遂げてきたコレクションだ。これまでショパールは、イエローゴールドケースにフルジェムセッティング、高振動ムーブメントの搭載やクロノグラフの実装、さらには超薄型ケースにサーモンダイヤルの組み合わせなど、さまざまなアルパイン イーグルを発表してきた。

ウブロスーパーコピー激安代引き先に取り上げた昨年のXPSは、大成功を収めた。それ以来、私の同僚たちはSlackの#watchtalkチャンネルで、その超薄型フォルムの素晴らしさを喧伝し続けている。アルパイン イーグルに新たな上位機種を誕生させる道を、XPSがハイビートキャリバーを搭載したケイデンス 8HFによって切り開いたのだ。

そして今年、アルパイン イーグル 41 XP TTがラインナップに加わった。ここであなた(そして私自身)のために、時計における"Semantics 101”(言語学やコンピュータサイエンスの文脈で使用されるフレーズ。これらの領域における基本的な概念や原則を導入するための初歩的なコースや講義を指す)を少し振り返りつつ、注意喚起していこう。まず、(タイトルで言及しているが)この時計の文字盤をスケルトンダイヤルと呼んではいけない。なぜなら、ショパールはこれをスケルトン(実際そうなってはいない)でもオープンワーク(これは非常に明確だ)でもなく、“L.U.C 96.17-Sの複雑な機械的機構全体が視認できる新しい超薄型タイムピース”としてはっきり説明しているのだから。非常に工業的な外観を持つXP TTをよく観察してみれば、なんとなく納得がいくのではないか。実は正直なところ(失礼、どうしようもなかった)、スケルトン文字盤とオープンワーク文字盤の違いについて30秒ほど考えなければならなかった。技術的にはこの文字盤はオープンワークと言えるのだろうが、オーデマ ピゲやヴァシュロン・コンスタンタンのような高価格帯の高級時計のそれとは異なる種類のものである。

なぜショパールがこのモデルを“オープンワーク”モデルとして発表しないのか、その理由を包み隠さずお伝えする前に、簡単に情報を整理しておこう。モデル名のXPは、eXtra-Plat(超薄型)の略だ。この時計のムーブメントであるL.U.C 96.17-Sの薄さは3.3mmで、ケース全体の厚みは8mmと非常にスリムになっている。総じて、かなり薄いと言えるだろう。そしてTTはテクニカルチタニウム(Technical Titanium)の略であり、したがってこの時計はメインコレクションのアルパイン イーグルよりもかなり軽量である。XP TTの直径は41mmだがベゼルは薄く、基本的なプロポーションとは少し異なっている。これは、この“オール・グッズ・オン・ディスプレイ(すべての要素が一覧できる状態)”の文字盤をより広く見せるためのものだろう。地板とブリッジにはケース開口部の曲線に沿うようにオープンワークが施され、ムーブメントの中心を囲む同心円状の空間を作り出している。地板の仕上げがないため、ある種インダストリアルな印象を与えるとも言えるし、皮肉な言い方をすれば、少し素っ気なく見えるとも取れる。それでも、ここにはまだまだ美的な要素がふんだんに盛り込まれている。サンドブラスト仕上げの地板とブリッジはブラックロジウム仕上げで、金メッキの歯車列と“L.U.C”のエングレービングが施された22Kゴールドのオフセンターマイクロローターを際立たせる見事なコントラストを生み出している。地板の仕上げに物足りなさを感じるのであれば、巻き上げ機構に施された面取りや、細部まで磨き上げられたビスなど、まさにL.U.Cにふさわしいディテールへのこだわりにも注目して欲しい。

2012年に初めて採用されたL.U.C 96.17-Sは、ショパール初の自社製スケルトン/オープンワークのムーブメントである。そう、XP TTをスケルトンモデルと呼ぶなと私は言ったが、2012年当時、彼らはオープンワークを施した斬新なモデルをLUC XP スケルテックと名付けていた。このムーブメントを最後に使用したのは(今年以前では)、2021年のLUC XP スケルテック限定モデルである。このムーブメントを搭載した時計は、すべてではないにせよ、そのほとんどの地板にジュネーブストライプがあしらわれていた。これまでのスケルテックには、L.U.Cラインに期待されるように、もう少しトラディショナルな装飾が施されていたのだ。まず私が思うに、XT PPの地板は、アルパイン イーグルのケースのサンドブラスト仕上げと調和するようにデザインされているのではないだろうか。少なくとも、このブラスト仕上げの地板はショパールが意図的に施したものであることは明らかだ。個人的には、より開放的なオープンワークを施したムーブメントが発表されてもよかったと思う。控えめな仕上げのL.U.Cムーブメントというのは、パラドックスを抱えていて少々滑稽でおもしろい。しかしおそらく、これはよりリーズナブルな価格(正確には税込392万7000円)でオープンワークのプロダクトを生み出す試みの一環なのだろう。そして私は、時計分野における民主主義を支持している!

この時計はグレード5のチタン製だ。しかし正直に言うと、私は軽い素材にさほどこだわりがあるわけではない。実際、私はゴールドの時計が何よりも好きなので、このチタン製の時計を手首にはめたときにどう感じるかについて、役に立つ意見を述べることはできない。言いにくいのだが、チタン製の時計はどれも同じような感覚で、「うわぁ、信じられないほど軽い時計だ!」という一般的な反応を呼び起こしたのちに、すぐに次の時計に目移りしてしまう。しかし今回のモデルには俄然好奇心が湧いて、試着するに至った。41mm径のチタン製“オープンワーク”スポーツウォッチなんていかにも私の好みじゃなさそうなのだけれど、その見た目が気に入ったのだ。実物を見る前から、その外観に引かれていた。だから私は、いまここでこの時計について書いているのだ。そして、私がヴィンテージのサンモリッツ スケルトンにちょっとした こだわりを持っていることも、好奇心が刺激される要因となった。新作のチタンウォッチかヴィンテージのサンモリッツか、私がどちらを選ぶかの答えはもうお分かりだろう。しかし、今日は近代的な時計の購買層について考え、彼らが近代的なアルパイン イーグルに何を求めているかを考察してみたいと思った。そしてどうやら、軽量性こそが求められているようなのだ!

より軽さを求めているというのなら、この特徴的なアルパイン イーグルのブレスレットはチタン製でとても快適だ。また、ショパール独自のルーセントスティール™製トリプルフォールディングクラスプが採用され、新型のセーフティプッシュボタンも配されている。ダニーの紹介記事によると、クラスプのセーフティプッシャーは手首からの取り外しを容易にするためのもので、間もなくアルパイン イーグルの全モデルに導入される予定だそうだ。ケースと同様に、このチタン製ブレスレットもステンレススティールのそれより少し黒っぽい色をしている。ちょっと光沢が控えめで、よりラギッドな印象だ。

アルパイン イーグル 41 XP TTは、アルパインが“ポピュラー”な腕時計へと踏み出すための次のステップとしては合理的で、完璧に理にかなっている。ここで言うポピュラーな時計とはブレスレット一体型のスポーツウォッチのことで、時計コレクターのコミュニティがドレッシーで一風変わった時計を賞賛するようになる一方で、大衆はこうした時計を貪欲に消費し続けている。しかし、これは決して事業拡大のための展開ではない。“オーデマ ピゲが売れているようだから、オープンワークのラグジュアリースポーツウォッチを作ろう”というコンセプトではないことは確かだ。第1に、XP TTにはサンモリッツ スケルトンという先代モデルがある。そして第2に、XP TTはショパールのスポーツモデルを、時計愛好家の世界においてショパールがこれまで標榜してきたスタイルへと導くものだ。つまり、真のドレスウォッチとしてのエレガンスである。ショパールはこのコンセプトについて“究極の古典主義的表現”とでも言うだろうが、それは間違いではないだろう。80年代と90年代における超薄型モデルを見れば、スリムなベゼルとケースが過去何十年にもわたってショパールの得意分野であったことがわかるはずだ。

すべてのコレクションにおいて、ショパールは可能な限り最高級の仕上げを追求している。カリテ フルリエの新作は、L.U.Cの水準をはるかに超えている。コアコレクションであるL.U.Cのドレスウォッチは、万人の好み(あるいは懐事情)にはそぐわないかもしれない。だが、アルパイン イーグルにこれらの高級ムーブメントを引き続き採用することで、ショパールが重視する高い仕上げを、より身につけやすいものへと昇華させている。これは審美的な反発ではなく、汎用性の追求なのだ。

ショパール アルパイン イーグル 41 XP TT。直径41mm、グレード5チタン製、ブレスレット一体型ケース。透かし彫りダイアル。ムーブメントはL.U.C 96.17-S、パワーリザーブ65時間。100m防水。価格は392万7000円(税込)で現在発売中。

パテック フィリップの計画が変更され、この素晴らしい時計が生まれた。

新作のRef.6301Aは、グラン・プチ・ソヌリとミニッツリピーター、グラン・フー エナメルダイヤルを備え、それらはパテックのコンプリケーションでは最も希少な金属素材のひとつであるスティールケースに収められている。

Patek 6301A
 昨年のOnly Watchオークションの延期は、パテック フィリップスーパーコピー激安代引きいくつかのブランドが撤退する結果となったが、残ったブランドには付加的な影響もあった。一部の小規模ブランドのなかには、今後のリリースのための新しいアイデアを試す機会としてOnly Watchを利用し、最終的な連続生産の価値を証明するために、大規模なオークション結果の好評を必要としている。しかしパテックは待つことを選ばなかった。Only Watchのリリースに基づいたシリーズの生産を見合わせた代わりに、彼らはそれを進めることにし、30本限定のミニット・リピーター・アラーム 1938Pを発表した。この時計のグラン・フー エナメル文字盤にはフィリップ・スターン(Philippe Stern)氏の肖像が描かれている。過去のパテックと比べると非常に異彩を放っているが、この新しい時計は、より“パテック”らしい。

Patek 1938P
Only Watchではなく、シリーズで発売されることになったパテック 1938P。

 Only Watchにおいてはいつものことだが、新しい6301Aはパテックのグラン・プチ・ソヌリとミニッツリピーターのユニークバージョンである。シースルーバックから見える手巻きCal.GS 36-750 PS IRMムーブメントは、3つのゴングを打ち鳴らす。時計のケースは、チャイムウォッチとして最も理想的な金属のひとつであるSS製で(ゴールドやプラチナのような密度の高い素材は音を消してしまう)、サイズは44.8mm径×12.03mm厚である。私の知る限り、パテックがグラン・プチ・ソヌリを単独で製作したのはこれが初めてである(ほかに思い当たるのは、記録を打ち立てたOnly Watchエディションのグランドマスター・チャイムのみだ)。つまり、グラン・ソヌリモードではクォーター(毎15分)と時刻、プチ・ソヌリモードでは時刻のみが打ち鳴らされることになる。またサイレント機能も備えており、リューズにあるモノプッシャーボタンを押すことで、要求に応じてミニッツリピーターでチャイムを鳴らすこともできる。

Patek 6301A
Patek 6301A
 ムーブメントは37mm径×7.5mm厚と非常にコンパクトでありながらふたつの主ゼンマイ香箱を搭載し、ムーブメント自体は約72時間、打鍵(打刻)機構では約24時間のパワーリザーブを提供する。このふたつのパワーにより、時計は24時間のうち、全1056回ソヌリの打刻ができる。ムーヴメントには、スモールセコンド(デッドビートセコンドとも呼ばれる)のジャンピング機能も搭載された。

Patek 6301A
 文字盤上部は、カテドラル・ゴング・ミニットリピーターの最新バージョンであるRef.5178Gと同様、ブルーグリーンのグラン・フー エナメルを使用し、手作業でギヨシェ彫りを施した渦巻き模様の手工芸文字盤が配されている。さらに12個のバゲットカットダイヤモンド(0.45ct相当)のインデックスをセットし、ムーブメントのパワーリザーブとソヌリインジケーターのインデックスには、“ONLY”、“ONE”とプリント。全体的に見て、この時計はブランドのなかでも目を引く一品であり、過去に彼らが行ってきたリリースとの調和を感じさせるものである。SS製グランドマスター・チャイムの記録を破ることはできないだろうが、ぜひ実機でこの時計を見てみたいと思う。

基本情報
ブランド: パテック フィリップ(Patek Philippe)
モデル名: グラン・プチ・ソヌリ・ミニッツリピーター・レアハンドクラフト Only Watch(Only Watch Rare Handcrafts Grande and Petite Sonnerie, Minute Repeater)
型番: 6301A-010

直径: 44.8mm
厚さ: 12.03mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: ブルーグリーンのグラン・フー エナメル、ハンドギヨシェの渦巻き模様ダイヤル(フランケエナメル)
インデックス: ダイヤモンドバゲット、パワーリザーブインジケータープリント
夜光: なし
防水性能: 非防水
ストラップ/ブレスレット: ブルーグリーンのパティーナ加工を施したアリゲーターストラップ、SS製フォールドオーバー・クラスプ

Patek 6301A
ムーブメント情報
キャリバー: GS 36-750 PS IRM
機能: 時・分・デッドビートセコンド、3つのゴングによるグラン・ソヌリとプチ・ソヌリ、ミニッツリピーター(リューズで作動)
直径: 37mm
厚さ: 7.5mm
パワーリザーブ: ムーブメントは約72時間、打鍵機構は約24時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万5200振動/時
部品点数: 全703点
クロノメーター: なし
追加情報: パワーリザーブ&ソヌリインジケーターには“ONLY”、“ONE”とプリント、サファイアクリスタル製シースルーバックにはメタライズドプリント(金属蒸着技術)で“Only Watch 2024”と記載

価格 & 発売時期
価格: 見積もり価格は150万~180万スイスフラン(日本円で約2億2500万~2億7000万円)